アレンジ力

落語を聞き始めて10年以上のキャリアがあり、今でも月1回は寄席に顔を出しています。以前落語教室に入り約1年修行に励み、その会の発表会でトップバッター前座見習いとして3つの小話を、喉がカラカラになりながら「かーちゃんパンツ破れたよ、またかい」みたいに噺、会場が凍り付いた経験を持っています。
この度の日経ホールで行われた、春風亭一之輔桂宮治2人会は最高に良かった。
特に、一之輔師匠の「初天神」は、後半戦、大岡越前が出てくる、すばらしいアレンジで、金坊にやりこめられる、おとっっあんの面白さが、越前が出て、反対に金坊がやり込められる展開には目からうろこの発想でした。このスバラシイ編集力、アレンジ力が、古典落語を現代に生き生きと、よみがえらせる無限の魔法のようで衝撃を受けました。
桂宮治さんもアレンジを発揮して、なるほどと思う切り口が多くみられ、さすが元トップの販売員と感じ入りました。細かいギャグがトップ販売員時代の現場経験から引き出しに多くの技があるのだと感じました。
一之輔師匠の、大きな構想力は、今、全ての業界に必要な事だと思います。
切り口を変え、組み合わせを変え、さらにオチはしっかり持ってくる。
うーんスバラシイ。本当に、その現場に居てよかったと感じた時間でした。

すずめの戸締り

正月、新海誠監督の映画「すずめの戸締り」は予想を超える面白さだった。見る前日に嫁いだ娘より早く見た方が良い、見たら連絡欲しいとあり、どうして?と思いながらの鑑賞でした。
主人公の、すずめが宮﨑からフェリーで四国の愛媛県そして今度は神戸へ最後は東京へ向かう道中が実は、我が家が恒例で帰省していたルートに似ており、その風景描写に懐かしい駅、坂道、港、空、そう知っている街並みがあちこちに出てくるからです、娘もその事を話したくて、うずうずしていたようでした。
「観た~あそこはあの乗った船だよね、あの商店街は絶対あそこだよね、あんな人いるよね、あの改札そっくりだよね~」など決してメジャーではない場所が美しい映像でながれていることに興奮して1時間以上も通話しています。
親近感が半端ないのか、あちこち話は飛びますが、考えれば毎年夏には必ず家族4人で、おじいちゃんのいる四国とおばあちゃんがいる関西へ、車やバスや電車や飛行機など様々な手段で帰省していた夏の記憶があります。
「物より思い出」昔の自動車のキャッチコピーではありませんが、やっぱり思い出は大事だなと改めて感じることができました。「あの電車から見える景色は、あのお城だね」「えー見逃したー」など、共有した風景があるから家族全員でワイワイ会話が出来るのです。
おすすめの1作です。

ラストスパート

2023年1月3日、箱根駅伝ゴール近辺の大手町で21チームが死闘を繰り広げた闘いの聖地に立ち、沿道で声援を送りました。
必死の形相で走るランナーを見ると「頑張れー」と思わず叫びます。
優勝のトップランナーはもちろんの事、来年のシード権獲得の10位以内を目指すランナーの走りは、厳しくも美しい汗が輝いています。10位と11位では天国と地獄、少しでも上を目指すランナー達は、10人でつないできたタスキを握りしめて、ただただ前を見て走ります。タッタッタッとランナーの乾いた足音が響く中、大きな拍手と頑張れの声、そして各大学の応援団の太鼓の響きが更にランナーと観客の応援の力となります。
この時、この聖地では、やる氣が充満し、ただその場にいるだけで元氣をいただく事が出来ます。

定年

2021年10月に役員から、ちょっといいと内線があり、20分程世間話をし
「で、何でしょうか私に」と言った時、役員から「来年の4月で60才になるよね、それでどうするか?本人の意思確認をしとこうと思って」と本題を切り出されました。ああそうか私も定年になるのかと漠然と考えていましたが、時は確実に歩んでいました。
当時、娘の結婚式を11月に控えた私は、定年の事は、なんとなく先だと考えていました。

「すいません私は定年後はどんな役割で、どんな事をするのでしょうか」
「同じ部で同じ仕事、立場は嘱託で給与は社内規定通り、立場は部長からシニアアドバイザーという名前になると思います、詳しくは2023年1月に総務部から連絡が行きます」
「わざわざ半年前にお呼びたていただきありがとうございます。娘の結婚式の件で定年の事あまり考えていませんでした、まさか自分が定年とは」
そして総務部に呼ばれる数週間前に、もう一度、役員と会い、シニアアドバイザーでどんなことをと言った時、「今迄と同じだよ、同じ立場だよ、他に誰がやれるんだよ、役職は部長、立場も部長、給料が下がるだけ、ボーナスも無し」と半ば逆切れされる様子で話されました。
「えー同じことして給料が4割ダウン~」
そして総務部が事務的に書類関係の説明をしてくれました。すこし特殊な例みたいですが立場が同じで給与が下がることは間違いないと確認できました。
人生100年時代と言われ、働き方改革と叫ばれて数年経ち、3年以上に及ぶコロナ禍での経済活動でリーモートやら在宅やらで必然的に働き方が変わりましたが、WEBで便利になった反面、人間関係は薄口になったように感じます。
そして60才を迎えるにあたり、日々の気持ちを書き残したい、また定年後の歩みも書き残したいと、少しモヤモヤした所で、この、はてなブログに記したのが最初のとっかかりでした、初投稿は2021年5月ですが、かなりお休みして2022年12月より、嘱託も慣れてきたので、思いを記したいと考え再ブログを開始しはじめました。
2022年もまもなく終えようとしています。2023年からは継続してブログを記して行きたいと考えています。

異邦人

その日はスマホから昭和歌謡久保田早紀「異邦人」を聴いていました。
いつもの乗換え駅に着いた時、祭りの様に人が溢れていました。「前を走る車両より異常音が発生し点検しています」の大きなアナウンスが構内に響いています。違うルートにしようと千代田線に向かいましたが、そこでも祭りの余韻があり、何とか乗り込んだものの「前を走る電車がつかえており運転調整を行います」と、イヤフォンをしても車両スピーカーの下で、強くつり革を握る私にアナウンスが聞こえました。
何度も途中で止まる為、ルート図を見ると次の駅が日比谷線とのアクセスがあり、移転した本社の近くに日比谷線虎ノ門ヒルズ駅」があることに気が付きました。
そうだ、初の虎ノ門ヒルズ駅に向かおうと人込みをかき分け下車し、表示を眺めながらくねくねと小走りに動きましたが、日比谷線が見つかりません。
薬局のオジサンに聞いたところ「出て左のエスカレーター2階で、まっすぐ20m右側の階段あがった5.6番線」と丁寧に教えて頂き、その御礼にリポビタンDを買う間もなく、階段をファイト1発と駆け上がりました。
ピーッと丁度、虎ノ門方面へ向かう乗車口が閉まろうとしていましたが、すばやく瞬間目で空いている方の扉に駆け込み、フーフーと息を整えました。イヤフォンからは「異邦人」。次の駅に着き、降りる人よりも乗る人の方が多く少し奥に進みました。また次の駅でやっと降りる方の方が多く少し周りに余裕が出来、かわいい子がいないか見渡し始めました。なぜだか振り向いた女性の瞳に少し違和感を感じました。右奥、左奥、そして下と確認したところ、男性が一人も居ませんでした。丁度曲が終了したところで
「この時間1号車は女性専用車両です」との冷たい声のアナウンスが流れ
「ちょっと振り向いてみただけの異邦人♪」の唱が聴こえました。

プレゼント

テレビの「プレバト」を見て、私にも描けるんじゃないかと、ホルベイン透明水彩を買って2年、現在月2回、市の公民館に集まり絵を描いています。
写真と絵は違う、目で見えた色は本当は違う色、紙に描いた時には、濃い影と光の白のコントラストが奥行、遠近感を表すなど多くの学びがあり、こんな感じだ、こんな感じに見えるんだを表現する事に、楽しさと感性の衰えを感じています。
昨年結婚式を終えた娘に、無謀にも当初、絵を贈ってあげると言ったものの、下書きから頭のデカイ5頭身の義理息子が出来、笑いながら何度も消しゴムで消し、まったく下書きが進まない状況でした。
ある時娘より「そういえば絵ってできたの?」と突っ込まれ、誤魔化していると、「大人が約束したことは守らないと・・もう結婚して間もなく1年になるから」と、やんわり圧力をかけてきます。
そこでユーチューブで人物の描き方を検索し、人体のバランス、耳の位置、手足の大きさ、〇を7つ描いて人体ラフ図を起こしていくなど研究を重ね、何とか形になった下書きが完成しました。
ここで色を間違えては台無しになります。慎重に薄く塗り始め何とか観れるんじゃないか、後は額で誤魔化そうと考えました。
そして先日娘夫婦が遊びに来た折、プレゼントに絵を渡しました。一目見るなり娘は「わたしの腰の位置こんなに下じゃない、もっと上」とダメ出ししますが「ほらみて影、影でそう見える錯覚だよ」と必死で説得し「まっギリギリ合格点ね」と許して頂きました。義理息子はスラッと良い形になっています。
1週間後、ピコンとラインが届き、娘が住んでるリビングの壁に掛けた額入りの絵の写真が届きました。
50年後、何でも鑑定団で「いい仕事してますね」と鑑定士からお褒めの言葉をいただけるように、今日もおにぎり片手にランニング姿で写生に向かいます。

エリザベート

思わず立ち上がり拍手、スタンディングオベーション
会場中が大きな感動に包まれています。
ミュージカル「エリザベート」は、その余韻が心地よく、終わった後もシートに、しばらく座っていたい感じになりました。
ファンクラブに入っている友人より「絶対観た方がいい、良いから」と言われ、用意してもらったチケット2枚。日本最高峰と言っていいキャストと音楽と舞台と演出。
トート役の山崎育三郎には、おっかけがいるそうですが、その甘い声に痺れる女性がいる事は会場で容易に想像できました。
地元のスーパー銭湯大広間で時々開催されていた大衆演芸でも、おっかけのオバサンが着物にまげ姿の役者に向かい「たつや~」など、くすんだ黄色い声が上がりましたが、エリザベートではオペラグラスを離さない女性が涙を流しています。
エリザベート役の愛希れいか、トート役の山崎育三郎、フランツ・ヨーゼフ役の田代万里生、そしてルドルフとゾフィー等このキャストが素晴らしい配役で調和を保っています。エリザベートの愛と死の輪舞を描いたミュージカル。
その幕が下り、そして再び幕が上がり、すべてのキャストが舞台に次々上がった時、拍手は最高潮になります。
22時過ぎ電車を降り、地元の24時間営業の中華料理店に余韻に浸りながら、奥さんと2人、競馬新聞を懸命に読んでいるオジサンと携帯で忘年会何時やろうかと真っ赤な顔で叫んでいる30代の2組に囲まれた席で、小腹をすかした私たちは餃子とラーメンを注文しました。私はレモンサワーを片手に、この騒がしい店内でクールダウンを図りますが、奥さんは少し早く帰りたいようでした。
「この店には、人間の真実があるんだ、大衆演芸だ、ハイ餃子1個食べな、チャーシュ1枚頂戴」と、思わず立ち上がり箸でつまみます。
高尚なミュージカルも大衆演芸もすべて豊かな文化の発露です。
平和のありがたさを噛み締めた2022年の夜でした。