異邦人

その日はスマホから昭和歌謡久保田早紀「異邦人」を聴いていました。
いつもの乗換え駅に着いた時、祭りの様に人が溢れていました。「前を走る車両より異常音が発生し点検しています」の大きなアナウンスが構内に響いています。違うルートにしようと千代田線に向かいましたが、そこでも祭りの余韻があり、何とか乗り込んだものの「前を走る電車がつかえており運転調整を行います」と、イヤフォンをしても車両スピーカーの下で、強くつり革を握る私にアナウンスが聞こえました。
何度も途中で止まる為、ルート図を見ると次の駅が日比谷線とのアクセスがあり、移転した本社の近くに日比谷線虎ノ門ヒルズ駅」があることに気が付きました。
そうだ、初の虎ノ門ヒルズ駅に向かおうと人込みをかき分け下車し、表示を眺めながらくねくねと小走りに動きましたが、日比谷線が見つかりません。
薬局のオジサンに聞いたところ「出て左のエスカレーター2階で、まっすぐ20m右側の階段あがった5.6番線」と丁寧に教えて頂き、その御礼にリポビタンDを買う間もなく、階段をファイト1発と駆け上がりました。
ピーッと丁度、虎ノ門方面へ向かう乗車口が閉まろうとしていましたが、すばやく瞬間目で空いている方の扉に駆け込み、フーフーと息を整えました。イヤフォンからは「異邦人」。次の駅に着き、降りる人よりも乗る人の方が多く少し奥に進みました。また次の駅でやっと降りる方の方が多く少し周りに余裕が出来、かわいい子がいないか見渡し始めました。なぜだか振り向いた女性の瞳に少し違和感を感じました。右奥、左奥、そして下と確認したところ、男性が一人も居ませんでした。丁度曲が終了したところで
「この時間1号車は女性専用車両です」との冷たい声のアナウンスが流れ
「ちょっと振り向いてみただけの異邦人♪」の唱が聴こえました。